2019年6月12日(水)FINOLAB InsurTech ワーキンググループが主催する、InsurTech Startup Meetup Vol.10が開催された。
FINOLAB InsurTech Startup Meetupとは?
FINOLAB InsurTech ワーキンググループが主催する、ミートアップイベント。InsurTechでの起業や新規事業を検討している方や、すでに立ち上げている方々が集うことで、海外から出遅れていると言われる日本のInsurTechを盛り上げていくことを狙っている。毎月第二水曜日の夜に、大手町ビル4階FINO LABにて開催されており、毎回ベンチャー企業や大企業の社員約100人が集う一大イベントだ。
記念すべき第10回目となる今回は、JapanDigitalDesign株式会社 Senior Manager 山田 和範 氏、株式会社400F 取締役COO 加々美 文康 氏のお二人をゲストに迎え、両氏から事業内容や、実現を目指す顧客体験について解説が行われた。
後半は尾花 政篤氏(FINOLAB InsurTech ワーキンググループメンバー 兼 hokan 代表取締役)を加え、3名でパネルディスカッションが行われた。顧客への新しい金融体験提供を目指す、その両社のアプローチの違いや課題、事業を裏付ける技術の話から、人という顧客のインサイトや特性、InsurTechに期待される役割について多くの示唆が提示された。
また、司会は東京海上グループの有志団体「Tib (Taiikukai_Innovati_bu)」発起人の荒地が務めた。
記事前半では山田氏・加々美氏の講演の内容を、後半はトークセッションでの議論内容をお伝えする。
ユーザーの想いを保険のプロへ「つなぐ」みんかぶ保険
JapanDigitalDesign(株)の山田 和範 氏は、みんかぶ保険を通じて『自分だけの保険デザイン』により、ユーザーの保険に対するイメージを変えたいと語る。
保険と聞くと、何となく難しそうというイメージを持ってしまう...何の保険に入れば良いか分からない...自分の周りの人ってどんな保険に入っているのだろう...そんな一般消費者の疑問や不安を簡単な質問に回答するだけで解消してくれるサービスが「みんかぶ保険」である。ロボアドバイザーを活用することで、自身でも気づいていない保険ニーズが浮かび上がってくる。山田氏が思い描くのは、商品ありきではない、1人1人のライフスタイルに寄り添うような次世代の保険のカタチだ。
入社10年間1度も保険を見直すことはなかった山田氏
山田氏自身は新卒として銀行に就職し、周囲の流れに任せて団体総合保険に加入したと語る。結婚、子供の誕生、家の購入など様々なライフイベントを通して保険を見直す機会はあったが、それでも実際に行動を起こすことは無かったという。こうした経験は、読者の皆さまもご経験があるのでは無いだろうか。
そんな経験から「金融サービスは目に見えない商品」だからこそ、一般消費者に理解してもらいづらいのだと考えるようになったという。いつでもどこでも自分に適した保険を簡単に描くことが出来るようになれば、顧客の納得感につながるのでは...そんな想いからみんかぶ保険は誕生した。
みんかぶ保険では、保険の種類や長さ、コストはもちろん、自分と同じ属性や環境の人が何に関心を持っているか一目で分かる。また、他人の評価・関心も見ることができ、納得感に繋がる。こうして目に見えなかった保険が見えるようになり、腹落ちした状態で保険加入の意思決定ができるようになるのだ。
保険マーケット全体の拡大、可視化、そしてプロへの橋渡し
みんかぶ保険のターゲット層は主に、「保険に無関心な人」と「実際に行動は起こさないが、潜在的に需要のある人」の2種類。特に、後者の層に保険を検討してもらうよう促すことが重要であり、その後、いかに具体的な保険のニーズを掘り出せるかが大事であると山田氏は話す。
専門家とマッチングして相談ができるサービス
加々美 文康 氏がCOOを務める400F社が提供するサービス「お金の健康診断」は、ユーザーが自分のデモグラフィックや家計に関する20問の質問に答えるだけで、自分のお金の使い方や貯蓄・年収に関する診断を受けられるサービス。希望者は無料でFPやIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)とマッチングし、チャット相談ができるのも大きな魅力となっている。
質問は20問と決して少なくはないが、通過率は7割超と高水準。ユーザーは信頼できるアドバイザーをすぐに発見でき、アドバイザーはニーズの強い顧客をすぐに発見できる、という双方にとってメリットのあるサービスとなっている。
金融行動は論理だけで決断できるものではない
加々美氏の話の中で印象的だったのは、「お金がない焦燥感」「漠然とした不安」「保険に入らなければという義務感」などの感情面に強く着目していることだ。
金融ならではの意思決定の特殊性についても以下のように語る。
「金融行動は論理だけでなく感情が強く介在する。特にローンや保険などは、購入頻度が低いために自分で使ってフィードバックを得て学んでいく流れが生まれづらい。だからこそ“信頼できる専門家”が必要となる。」
人が大きな金融行動を起こす場合の多くは、ライフイベントが起こる前後である。ただ漠然と良いプランを提示するだけでなく、TPOを的確に捉えて不安を取り除くことで、顧客の積極的な決断をタイムリーに支援する。これこそが加々美氏が描く金融サービスの理想像だ。
営業はマツコデラックスを目指すべき!?
ユーザーとアドバイザーがマッチングするとチャットが始まる。そして会話が進んでいくと対面相談に至るわけだが、うまく進まないケースもある。
よくあるパターンがいわゆる“知恵袋”状態。「掛け捨てと積立の違いを教えてください。」「こういうことです」「なるほど」と質問に答えるだけで会話が全く盛り上がらない。
また、「今後どうしたいですか?」などのオープンクエスチョンをして顧客が考え込んでしまう、というのも良くある悪い例だそうだ。
いいパターンはツッコミから入るケース。「お金の健康診断」では家族構成や貯金額などの情報が共有された状態で会話が始まるので、「子持ちでこの貯金額は低くない?」など、ユーザーの納得感を得られる話がしやすい。
こうしたノウハウは、アプリをきっかけに生み出された数多くのマッチングから得られる。
400Fがこれを基にアドバイザーへのコンサルテーションを行うことで、世の中のお金の悩みがより高い精度で解決されていく。まさにInsurTechによって生み出される新しい世界観である。
「営業が上手い人は、マツコデラックスのようにズバズバものを言って顧客の信頼を得ている。」
自分の資産をどうしていいかわからない人からしてみれば、優しく提案されるよりマツコに決めてもらった方がありがたいのかもしれない。
続いて、モデレーターに「保険代理店向けクラウドサービス」を手がけるhokan CEO の尾花氏を迎えてのパネルディスカッションの様子を、会場から支持の多かったご質問、Tibが気になった点を中心に紹介したい。
たった数十問でお客さんに最適なものが選べるのか
尾花:会場の皆様からのご質問にもありましたが、たった十数問の質問でお客さんにとっての最適な保険商品をご提案できるものなのでしょうか?
山田:何を持って最適か、というのは難しく、定量化できるものではないと思っています。だからこそ、お客様にいかに腹落ちいただくか、に注力をしています。その際、何個も質問をするよりも、きっかけ作りとしての数問かな、と。
1人子供が生まれたな、とか、世話につきっきりで保険のこと忘れてたな、という人に少しでも保険のことを思い浮かべてもらえる仕組みにしたいと考えています。
十数問の質問では十分でない人もいるでしょう。大事なのは何となくでもいいから保険に対して自分なりのイメージを持つことです。自分がどうしたいかがあったうえでプロに相談することで最適になると思います。
加々美:なんで最適な保険を購入できないと思ってしまうか、というと構造的な問題や背景があるわけです。
ポイントサイトとか、募集人はお金やインセンティブで引っ張ってきたお客さんに対して「取り返さなきゃ」という意識が働いてします。
この部分を変えないといけない。「お金の健康診断」では集客やマーケティングを比較的安価で提供することで、この構造を変えようとしています。
「リアルチャネル」 という逆転の発想
尾花:「入り口」のお話ですが、ロボアドまでの導線としてどのように人を集めていますか?
山田:ネットだけではなく「リアルチャネル」が大切だと感じています。
そもそもユーザーの多くは、お金や保険のリテラシーがそれほど高くはないため、既存の「リアルチャネル」という「レガシー」を逆転の発想で活用するのが有効だと考えています。リアルチャネルに来ている人をどのようにネットへ橋渡しをしていくかは今後、もっと工夫していきたいです。
加々美:リアルの場所が大事、というのは同じ感覚で、「お金の健康診断」も実験的に代理店においたりしています。
オンラインで「塾 3歳 子供 私立」の検索に紐付けることもできますが、時間がかかるので、結婚式場や、塾といったライフイベントリアルに起こっている場所にも注目しており、テンションが高い瞬間をキャッチするようにしています。
「ユーザー目線」に立つ
尾花:最新のサービスづくりのポイントや心がけていることはありますか?
山田:ユーザー目線に立つ。それにつきます。
プロジェクトでそれほど保険に詳しいメンバーは少ないため、この道何十年のプロには考えられないようなところを狙ってみたり、弊社の金融アライアンス、デザインを強みに、保険を検討する際の入り口となる「ドアノックツール」を狙ってみたりしています。
加々美:サービス開発という観点では、定量的計測による改善は当然として、定性的な観察を大切にしています。定量的にはそもそもファネルの数値をきちんと取得して、改善に結び付けられるようなチームを作れているか。定性的には、かならずお客様、またはFPに会います。その際にはオーラをみろ!といってます。顧客インタビューという特殊な空間ではお客さんのインサイトは出てこない。参与観察的にどっぷり浸からないとわかりません。なので、お客さんに会っていますし、それが長期的にも大事な取り組みだと思っています。
「合理的」だけが理由にはならない
尾花:最後に、これからInsurTechが発展していくための提言をお願いします!
加々美:人が保険や投資をする際に「合理的であること」のみが理由になることはまだ難しいと思っています。それができるのは、合理的に物事を考えて自分で決断できる意思のある人で、それは少数派です。
大きな意思決定をしたという人生経験があって、金融の知識があって、自分と近い。そんな人からのアドバイスのほうが一般的なユーザーにとってはよっぽどリアルです。重要な意思決定をするときほど“人”は必要で、基本的には人間はとは人間にとって最高のインターフェイスだと考えています。
インシュアテックは何かを実現するための手段
山田:InsurTechにしても、保険にしても、何かをするための方法であり、手段です。では何を実現するための手段なのか?
どんな人生を送りたいのか?入院した場合でもどんな生活が送りたいのか?どのような子育てをしたいのか?やりたいことをするための不安は何か?どのように達成していくのか?
そんな本来的な人の生き方に関する疑問やその解決をいきなり人に相談するのは難しいですよね。そんなときInsurTechが役に立つ。
それを理解して活用していくことで、一過性ではない習慣や文化として「金融の新しいあたりまえ」が根付いていくのではないかと思っています。
最後に
「金融商品の分かりにくさ」に対し、UIとロボアドバイザーで「分かりやすく・親しみやすく」するみんかぶ保険のアプローチと、ユーザーに刺さる提案が出来るようFAをサポートし、「分かりにくいから、信頼できる人に決めてもらいたい」という、人の“感情“に働きかける400Fのアプローチに、デジタルを前提とした次世代の金融サービスの在り方を垣間見ることが出来た。
一方、お二人の講演者が語るのは、デジタル技術の凄さではない。ユーザーは何を求めているか?と考えることも、良い営業とは何か?と考えることも、どちらも“人”の観察なくしては成り立たない。デジタル技術によって、人がより人らしくなる。そこに目を凝らすことが今後の保険会社に求められているのではないか、そう考えさせられる講演だった。
登壇の後には懇親会もあり、多くの参加者が交流を深めた。
【本記事のライター】
東京海上グループ有志団体”Tib”の「東京海上のイケてる感を社内外に伝えるチーム」(通称:イケチー)の面々。
今日のライターは手前から、あつこ、はた、さいもん、あゆみの4人。
普段から東京海上や保険の面白さ、ワクワク感を伝えるための広報活動を研究しており、現在はSNSによる記事の発信に加え、インフォグラフィック・動画コミュニケーションなど様々な領域に挑戦中。
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