上海に行って最新のデジタル社会を体感してきた!! 〜後編〜

今回はメンバー畑中による上海デジタル旅行の後編です。前編投稿以降、後編を期待する声を数多く頂戴していたのですが、気づけば2か月経ってしまいました…遅くなってごめんなさい!

【前回のあらすじ】

次世代のデジタル社会やUI、UXのあり方を描いた書籍『アフターデジタル』に感化されたTibメンバー畑中は、弾丸で中国・上海にいる友人を訪ね、財布を持ち歩かずにスマホだけで全てが完結する、アフターデジタルの世界を体感していた。

(前編はこちらを参照)


次世代スーパー「盒馬鮮生(フーマー)」へ潜入!

上海2日目、訪れたのは中国の次世代型スーパーの「盒馬鮮生(フーマー)」。アリババグループが出資するスーパーマーケットで、専用アプリから商品を注文すると、周囲3km以内であれば30分以内で配送してくれます。特に海鮮などの生鮮品を幅広く取り扱っており、新鮮な食べ物を短時間で簡単に届けてくれる点が、ECサイトにない大きな魅力となっています。


配送を希望する会員はアプリで買いたい物を注文。するとそれを受け取った店員が店内を周回し、専用の買い物袋に商品を入れていきます。注文品がすべて集まると、店員は天井に張り巡らされているレールに袋をひっかけ、買い物袋はそのまま店内を抜けて集配所に運ばれ、袋のバーコードを基に注文者のもとへ届けられます。

要するに、お客さんの代わりにスーパー内にいる店員が買い物をしてくれるというわけです。アリババグループのスーパーなので、決済はもちろんALIPAYで完了します。フ―マーは、ここで得た顧客の購買データを仕入れ量の予測やマーケティングに使用していますが、ALIPAYの使用者の分布から商圏も把握できるため、新しい店舗を立てる際には極めて高い精度で売上高や売れそうな商品を予測できるそうです。


店舗に行って感じたのは、とにかく店員が多いこと。店内は広く買い物客が多いためそもそも人数が必要な上、アプリからの注文に備えて常時5~10人程度の店員が待機していました。デジタル化した便利な世界のその背景には、豊富な労働力を持つ中国ならではの強みが利いていることがよくわかりました。


中国モバイル決済の現状

ここまで全ての話に出てきたモバイル決済。中国のデジタル経済を支えているのは、日本でもおなじみになりつつある「ALIPAY」と「WeChat Pay」の2大巨頭であり、現在この2つで中国のモバイル決済市場のシェアの9割以上を占めています。

実際に筆者の旅行中は大小関係なく全てのお店でこの2つの決済手段を使用することができました(例えば、老夫婦が営む小ぢんまりした小籠包屋でも当たり前のようにQR決済を勧められました。)。

そもそも中国のキャッシュレスの先駆者はアリババ。2000年代前半にEC市場に参入した際に、出品者と購入者の間の安全な送金を担保する仕組みとして始まったのがALIPAYです。その後スマホの普及に伴い、パソコンを使わない人でも簡単に決済ができるようになっていくわけですが、そこに登場したのがWeChat Pay。テンセントは人海戦術で中国じゅうのあらゆる店舗に2次元バーコードを貼りつけ猛追しましたが、躍進の理由は何といっても中国人のほとんどがダウンロードしているコミュニケーションアプリ、WeChatに紐づいていたこと。


コミュニケーションアプリに紐づく決済ツールは、普段連絡を取っている友人同士であればわざわざIDや口座番号を聞かなくても簡単に送金し合えるため、割り勘や精算が本当に便利。

私の周りの人たちも、多くはコミュニケーションアプリ”LINE”に紐づいた”LINE Pay”を使っています(Tibでも懇親会をしたり部費(月2,000円)を払う時はいつもLINE Payです。)。正直QR決済はSuicaなどに比べると店舗での支払いは若干面倒なのですが、1円単位まで数秒で送り合えてしまう「送金」の利便性が圧倒的に高いため、なにかの精算のたびに入金し使ってしまいます。

また、こうして決済アプリの残高が増えてくると、これを消費するために店舗で自然とQR決済を使います(銀行口座に戻す際には手数料がかかってしまう)。これを繰り返すと操作にも慣れ、QR決済の手間も気にならなくなってきて、使用のハードルが下がります。

特に中国ではあらゆるお店にQRコードが張られているので(町の大道芸のチップや募金などもQR決済だったりします)、気づけば現金を持つ必要がなくなっている、というわけです。

こうして、2014年時点でALIPAY80%に対し10%くらいだったWeChat Payのシェアはみるみる上昇し、2018年には約40%近くになっています。


中国ならではの右脳的アイディアたち!

3日間の旅を通じ、この国はつくづく独創的でチャレンジングな国だなと感じたので、いくつか紹介します。

① 即席カラオケボックス

二人で入れるカラオケボックスが駅や商業施設などそこかしこに設置されています。利用者は画面のQRコードを読み取ってスマホ決済に連携、1曲単位や時間単位等複数の料金体系から利用プランを選び、曲を選んでヘッドホンをして歌います。私も数少ない日本人歌手の中から小田和正を見つけて歌ったのですが、普通のカラオケとして楽しめました。わざわざ駅の中でやる理由があるのかって感じではありましたが…

② 全自動生絞りオレンジジュース製造機

「100%ジュースではなくしぼりたてのオレンジジュースがどうしても飲みたい。でも絞る道具もみかんも持っていない」。読者の皆さんはこんな悩みと日々戦っていることでしょう。しかし、上海人はそんな悩みとは無縁です。そう、彼らにはORANGEMANがいるのですから…

③ どこでも乗り降りできるチャリ

中国はシェア自転車大国で、上海の街にもたくさんのシェア自転車が置いてあります。会員登録と紐づいて開錠し自由に使用可能。乗り捨て可能ですが白線の自転車置き場内に入れないと信用スコアが下がるので、皆きちんと所定の場所に戻るようです。移動データを基に時間帯ごとに最適な量の自転車が配置されています。


なお、業者が乱立したのとブームが落ち着いたのとで破たんが相次ぎ、一部の会社には利用者からのデポジットの返金申請が殺到しているようです。私の友人もそのうちの1人ですが、1,588万番目とのことです(1,588じゃないです、1,588万です)。

④ 交通違反の取締り

上海には交通違反した車や犯罪者の行方がすぐわかるよう、道のいたるところにカメラが設置されています。

例えば信号無視をした人は、街中のモニターに違反者として顔が発表されます。

自動車は原則クラクション禁止とのことで、クラクションを鳴らした車はナンバーを検出され数日後に家に罰金の請求書が届くそうです(支払はここでもモバイル決済)。


全体所感

最後の最後に会社っぽいカタい見出しになってしまいましたが、上海は総じて決済という観点では日本よりも進んでいましたし、老若男女問わずキャッシュレスを受け入れ使いこなしていることが、ここまで普及し発展し続けている大きな理由だと感じました。


そしてもう一つのカギが、労働力。中国が実現しているOMO(Online Merges with Offline)の世界は、オンラインを前提とした便利な仕組みをヒトが動くことで形にする世界。上海の友人が言っていましたが、お店の値段とほぼ変わらずに食べたいものを早く届けてもらえるのは、安い賃金でこれを届けてくれる人がいるからであり、スーパーに注文するだけで30分以内に品物が届くのも、現地で買い物をしてくれる人が沢山いるからです(ちなみに、フ―マーの入り口には、客から傘を預かり、傘を袋に入れるマシーンに傘を通してくれる係の人がいました。)。


日本にも便利なサービスがもっと普及して欲しい!と思う一方で、こうした労働集約型のビジネスモデルは労働力不足で人件費が高い国では難しい。また、これが成り立つことはある意味格差の裏返しでもあるため、本当に持続可能で理想的な世界なのか、という点についても強く考えさせられました。


とはいえ極めて便利で魅力的な世界でしたし、こうした実体験も還元しながら、Tibとしてデジタル社会への感度と理解を深め、日本のより良い姿についても議論していきたいと思います。


なお、帰国後早速中国経済の本を羽田空港の本屋で購入したのですが、まさかのQR決済未対応により、スーツケースの奥底から財布を引っ張り出す羽目に。日本よ、こういうとこだぞ…

(文:畑中)


参考文献:西村友作(2019)『キャッシュレス国家:「中国新経済」の光と影』 文春新書.

0コメント

  • 1000 / 1000