2020年2月12日(水)FINOLAB InsurTech ワーキンググループが主催する、InsurTech Startup Meetup Vol.17が開催された。
FINOLAB InsurTech Startup Meetupとは?
FINOLAB InsurTech ワーキンググループが主催する、ミートアップイベント。InsurTechでの起業や新規事業を検討している方や、すでに立ち上げている方々が集うことで、海外から出遅れていると言われる日本のInsurTechを盛り上げていくことを狙っている。毎月第二水曜日の夜に、大手町ビル4階FINO LABにて開催されており、毎回ベンチャー企業や大企業の社員約100人が集う一大イベントだ。
第17回目となる今回は、デジタル代理店として「AIほけん」を販売する株式会社NTTドコモの寛司 久人氏、および、先日保険業への参入をリリースされた株式会社Finatextの河端 一寛 氏をゲストに迎え、「保険をより身近にするためには」をテーマに両氏から講演が行われた。
後半では、東京海上日動火災保険株式会社兼東京海上グループの有志団体「Tib (Taiikukai_Innovati_bu)」発起人である 荒地 竜資をモデレーターとしてパネルディスカッションが行われた。
記事前半では寛司氏・河端氏の講演の内容を、後半はトークセッションでの議論内容をお伝えする。
第一部「NTTドコモの考える保険の未来」
NTTドコモ(以下、「ドコモ」)が「保険」?読者の中にはそう思われた方もいるのではないだろうか。
ドコモが保険事業に乗りだしたのは2010年、10年前である。以降、ネットおよびリアルでの保険代理店業、そして保険会社との商品組成を実施してきた。寛司氏はその立役者である。ドコモで新規事業や新規サービスの創出に20年携わり、内、保険事業に8年携わってきた。
ではなぜドコモが保険事業を行っているのか?寛司氏はその理由を大きく3点挙げた。
一つ目は環境変化である。携帯電話のカタチ自体がこの十年で大きく変わり、同時に携帯電話の利用時間やデータ通信量も大きく増加している。一方の保険をとりまく環境も大きく変化しており、保険のチャネル、商品数も増え顧客の選択肢も多くなりすぎてしまった、と語る。
次に、保険商品特有の難しさである。
携帯電話であれば、目に見え、大概の機能を買う前に理解でき、わからなければ誰かに聞くことができる。他方、保険はそういうわけにはいかない。目に見えず、わかりにくい、誰かに聞きにくいし、詳しい人も周りにそうそうはいない。
更に問題を難しくしているのは商品数・保険会社数の多さである。保険と一口にいってもそのバリエーションは天文学的な数字になる。
最後に、保険販売の構造的な問題である。
これまでの保険販売はまず保険会社があり、そこが定型商品をつくる。積極的に販売したい商品にはなにかしらのインセンティブを設け、代理店はインセンティブの高い商品を提案する。顧客はそれに乗って、契約をしてしまう。保険会社が上流、顧客が下流にいるような業界構造になっていた。
上記の環境変化を前提に、2,3点目の課題をモデルチェンジしていくことがドコモの目指すこれからの保険のあり方だ、と寛司氏は語る。
保険がより身近な存在となり、一人ひとりにあったものに「納得して」加入いただく。その世界を実現するために保険販売の構造を保険会社起点ではなく、顧客起点で再設計していく。
それが、ドコモが今取組んでいる新しい保険のあり方なのである。
AIほけんはまさにそのはじめの一歩で、簡単な質問に答えるだけで、一人ひとりにあわせたプランがリコメンドされるようになっている。
更にドコモは先を見据えている、と締めくくりに寛司氏は語った。
まずは保険をポジティブなもの、身近で寄り添うものに変えていく。その上でより本質を捉え、いざを「なくす」もの、そしてお客様の利益を守るものへ変えていく必要がある。それをドコモは「あんしんのあたらしいアンサーに。」のスローガンのもと実現してゆきたいと考えているのである。
ドコモの作る新しい保険の在り方から、目が離せない。
第二部「 保険が人々の生活に溶け込んでいくために 〜保険クラウドと少額短期への挑戦〜 」
続けて株式会社Finatext 保険事業開発責任者の河端 一寛氏より「 保険が人々の生活に溶け込んでいくために 〜保険クラウドと少額短期への挑戦〜 」というテーマでプレゼンが行われた。
河端氏は2010年に広告会社へ入社し、その後コンサルティング会社を経て、昨年の2月にFinatextへ入社した。「保険業界からしてみれば門外漢」だという。
Finatextは2013年の夏に創業し、4カ国展開をしているFintechのスタートアップである。
証券・投資アプリなどの金融サービスの提供を行い、グループには証券会社も持つ。
「金融が複雑でわかりにくいために、十分に人々の役に立てていないのではないか」、という問題意識から「金融を“サービス”として再発明する。」ことをミッションに事業を行っている企業である
これまでは証券に軸足を置いていたが、昨年11月に保険事業への参入を表明した。
Finatextが保険事業で目指すのは「生活の中に保険が自然と溶け込んで提供される状態」である。保険を生活サービスに溶け込ませるために二つの取り組みを推進している、と河端氏はいう。
一つは柔軟性と拡張性を兼ね備えたビジネス基盤システムとしての「保険クラウド」の開発である。オンライン上の生活サービス(チャネル)と保険をシームレスにつなぎ、かつ、色々な種類の保険商品を載せられるようなシステム基盤を開発している。システム設計においては、P2P保険のような保険商品自体の進化に適応したり、テクノロジーの進化に応じて簡単にアップグレードしたりできるような、工夫を図っている。
二つ目は、生活者の困りごとにきめ細かく応えられるように自らで少額短期保険会社の立ち上げを検討している(立ち上げは関係当局への登録手続きの完了が条件)。その検討においては「顧客視点」を重視し、既存の商品では対応しきれていないリスクに対して必要十分な商品を、簡便な手続きで届けていくことを目指す。「『顧客視点』は”言うは易く行うは難し”」と河端氏はいう。ありふれたコンセプトではあるが、組織全体・すべての行動にこれを徹底するのは非常に難しいことであり、これを真に追求できるかがFinatextの生命線になる、と語った。
最後に河端氏は
「Finatextは、“InsurTech”を二つに分解して考えた際の、“Insur”側からではなく“Tech”側からのアプローチで保険業界をアップデートしていきたい。
すなわち、保険の仕組み自体を変革したりディスラプトしたりすることよりも、既存の保険商品をデジタル技術をうまく活用しながら届けることで、人々にとって『保険』が自然な形で受け入れられるようにしていくことを目指している。」と意気込みを語った。
第三部では東京海上日動火災保険株式会社兼東京海上グループの有志団体「Tib (Taiikukai_Innovati_bu)」発起人である荒地 竜資を交えてパネルディスカッションが行わえ他。以下ではその様子をお伝えする(以下、敬称略)。
荒地:保険を身近にする上での課題はなんだと思いますか?
寛司:商品数が多く選びづらい、カタチがなく手触り感がない、レビューがなくほかの人の意見がきけない、と挙げれば色々あります。要は売り手と買い手との間の情報の非対称性が課題だと思います。
荒地:保険リテラシーがマイナスからのスタートであるところは大きな課題ですよね。河端さんはいかがでしょうか?
河端:商品面は寛司さんのおっしゃるとおりだと思います。課題としては大きく「商品」、「チャネル」、「手続き」の3点が挙げられると考えています。
まずは、「商品」が目に見えず、複雑で、わかりにくいこと。そのせいもあり、「チャネル」はある種押し売りに近い形で販売をしているケースもあると考えています。更に「手続き」の多くが未だ紙で行われており、煩雑であることも大きな要因だと思います。
荒地:ありがとうございます。お二方の共通点は”デジタル”というところだと思いますが、”デジタル”を通じてどう変わるか。一方で、できないところはどこだと思うか、教えていただけますか?
河端:デジタルを本当に活用していこうとすると、チャネルや手続きだけでなく、商品設計も含めて変わっていくべきだと思います。
それは、たとえば、「保険への加入や保険金の請求手続きを簡単にしたい」ということを志向したときに、商品の加入条件や請求審査項目もシンプルに設計しておく必要があるからです。
一方で、デジタルではできないところとしては、たとえば死亡保険などは「対面で説明を受けたい」「人から買いたい」というニーズが根強く残るのではないかと思います。このような保険については、かならずしもデジタルかリアルかという二択でなく、どのようにデジタルとリアルを組みあわせていくべきかという考え方が大事になると思っています。
そういったことを踏まえてFinatextとしては、まずはデジタルに一番親和性の高そうな領域から着手して、市場の反応・デジタル化の可能性を探っていきたいと思っています。
寛司:保険を代理店としての勝ち筋は、①最初に想起されること②信頼できる(人・店である)こと③ワンストップであること、の3点がそろう必要があると思っています。生保やディーラーの成功してきたモデルは必ずこの3点を満たしています。デジタルでもこの3点を充足させることは必須だと思っています。まさに、営業職員の皆様がやってきたことをデジタルでも実施していく必要があると考えています。
荒地:AIほけんもFinatextさんの少額短期保険も比較的小さいところのスタートだと思いますが、そこからどのように自動車や火災といった機関商品に攻め込んでいくか構想をお伺いできますでしょうか?
寛司:いわゆる基幹系の保険商品というのは英会話やライザップと同じで、大事だとわかっているがなかなか動きだせないものだと思っています。知っている誰かに背中を押してもらいたい、勉強をして深く理解をして買いたいなどのニーズがあるため、すべてをデジタルにしきることはできず、人の関与は残ると思っています。よって、すべてをデジタルにしきる必要はなく、人が扱うもの、デジタルが扱うもの、で商材がわかれていくと思います。
まずは小さいところからデジタルで確実に信頼を築き、その後に初めて基幹商品も含めた保険全体をモデルチェンジしていけるのではないでしょうか。
河端:現時点で考えている方向性は大きく二つあります。
一つは、マイクロ型保険同様の手法で大物系の機関商品をデジタルで販売することです。ただし、これは保険業界として過去十年以上苦戦しているところかと思います。
もう一つは、寛司さんの発想に似ていますが、マイクロ型の保険を通じて、保険の必要性を喚起させ、リアル接点での大物系の機関商品の販売に繋げていくことです。クロスセル的な発想で機関商品に繋げていけるのではないかと思っています。
荒地:会場の皆様が最も気になっている質問かと思いますが、お二方は、日本においても保険がデジタルで完結する時代がくると思いますか?
河端:加入についてはわかりませんが、契約保全や支払いではデジタルが活きるところが多いと思います。請求しなくても払われるような事例もでてきていますし、親和性の高いところは大部分がデジタルに置き換わってくるのではないでしょうか。
寛司:デジタル化がくる!と言い切りたいですが、ネット型自動車保険10%いっていないところをみるとなかなか課題も大きいのではないかと思っています。一方でAmazonの書籍ECは30%あることに鑑みると、お客様に正しく理解していただき、デジタルの選択肢があるということを広げていけば、デジタルで保険を買うという選択肢が当然になる可能性は多いにあると考えています。
荒地:最後に、保険業界をこうかえたいというような抱負があればお願いします!
寛司:ドコモが保険をやっているというと業界の方は、何をしにくるのか?業界を壊しに来るのではないか?といったようなお言葉をいただくこともあります。
私自身は、保険という業界に8年近くいて、将来のリスクをシェアするビジネスモデルはすごい、素晴らしいと思っています。そしてこのモデルはディスラプトにそぐわない。ディスラプターとして壊していくのではなく、業界の中から変えていく必要がある、と考えています。
業界の皆様と一緒に、お客様視点で保険を再設計できるような座組、仕組みを作り上げていければなと考えています。
河端:保険業界に足を踏み入れてみて、保険業界でよく言われる、“顧客保護”という言葉に違和感を覚えています。“顧客保護”という言葉は、顧客が不利益を被る可能性がある前提で「マイナスをゼロにしよう」というニュアンスの言葉だからです。
“保護されること”はいち早く当然となった上で、さらにその先のプラスの価値を追求することや“顧客満足”といった言葉が使われることを、業界の当たり前にしていければ良いと考えております。
荒地:お二方とも、誠にありがとうございました!
パネルディスカッションの後には懇親会も行われ、参加同士での交流を深めた。
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