2019年10月9日(水)FINOLAB InsurTech ワーキンググループが主催する、InsurTech Startup Meetup Vol.13が開催された。
FINOLAB InsurTech Startup Meetupとは?
FINOLAB InsurTech ワーキンググループが主催する、ミートアップイベント。InsurTechでの起業や新規事業を検討している方や、すでに立ち上げている方々が集うことで、海外から出遅れていると言われる日本のInsurTechを盛り上げていくことを狙っている。毎月第二水曜日の夜に、大手町ビル4階FINO LABにて開催されており、毎回ベンチャー企業や大企業の社員約100人が集う一大イベントだ。
FINOLAB Events HP:https://finolab.tokyo/jp/events/
13回目となる今回は、「保険の認知とニード喚起」をテーマとして、「お金のパーソナルトレーニング」を提供されているbookeeの児玉 隆洋氏、進化系家計簿アプリや保険のロボアドを提供されているSasuke Financial Labの松井 清隆氏のご講演が行われた。
後半はみずほフィナンシャルグループ南 達也氏をモデレーターとして、児玉氏と松井氏と共に、お二方の目指す将来像等について活発なディスカッションが行われた。
記事前半では児玉氏・松井氏のご講演の内容を、後半ではパネルディスカッションの内容をお伝えする。
目指す世界は「金融教育を義務教育に。」
児玉 隆洋氏は、2007年にサイバーエージェント入社、アメーバブログ事業部長、AmebaTV局長を努めた後、昨年2018年に日本の金融教育の遅れへの危機感から、株式会社bookee(以下、「bookee」)を創業した。
bookeeのビジョンは「金融教育を義務教育に。」である。金融商品の購入にあたっての金融機関とお客様の情報の非対称性をなくし、一人ひとりが金融商品の購入を正しく判断できるようになることを目指している。その根本には、児玉氏の自身の体験をもとにした「金融商品も結婚と同じ。納得したものを腹落ちして選ぶものではないのか?」という強い想いがあった。
近年、若い世代が何かを購入・選択する際には、「①友人から聞く、②インターネットで調べる、③自分に知識をつける」という3点が大きなトレンドとしてみられるという。これらのトレンドを踏まえながら、テクノロジーを強化し、既存の金融機関と手を組みながらお客様のためになるリテラシーを広げていくことを成し遂げたいと語る。
お客様にあわせた「金融の旅」のデザイン
bookeeが解決を目指すのは「老後が不安。年金が不安。」「自助努力の方法がわからない」といった課題である。日本経済新聞によると老後になんらかの不安を感じている人は77%にも上るという。これらの課題を「人」×「テクノロジー」で解決するのが同社のミッションである。
中立的な金融リテラシーに、人が行動を習慣化するための行動科学のデータ、そしてテクノロジーを組み合わせて独自のエンジンを開発し、お客様一人ひとりにあわせた「金融の旅」をデザインしている。また、お客様と対面でのトレーニングを実施しているだけでなく、お客様の購買データをもとにエンジンを常にブラッシュアップしている。
当初、株主・関係者から事業の成功について不安視されていたらしい、との後日談も伺った。当時はそれぞれの方からポジティブなコメントや応援をいただいていたが、内心は「うまくいかないのでは?」と思っていたことを後になって明かされたという。当時の関係者の予想とは裏腹に、同社の事業は着実に軌道に乗ってきている。その肝はデザインであり、お客様の考えていることや、その解決策・そして一人ひとりにあわせた“旅”がデザインできていることが成功の秘訣だったと振り返る。
同社のサービスは、2つのフェーズでの展開を考えている。
現在は第一フェーズにあり、リアルな場所における個人向けのファイナンシャルトレーニングを実施している。丸の内、銀座をはじめとして都内4か所にスタジオを開設し、今後、渋谷と新宿にも展開を予定する。地方向けにはオンラインサービスも提供をし始めたそうだ。
リアルな場で提供するのは「中立的な金融サービス」のパーソナルトレーニングである。実は、同社のトレーニングでは金融商品の販売・紹介は一切せず、その“選び方”を教えることを徹底している。専属の担当がつき、保険、家計管理、NISA等あらゆる分野を学習し、自分自身で金融商品を選べるような正しいファイナンスリテラシーの習得を目指す。
独自の人材開発スキームを活かして広範囲での展開を目指す
同社の強みは、その人材開発スキームにあるという。児玉氏の前職である、サイバーエージェントでの人材育成メソッドを基に、同社でのスキームを構築している。結果として非金融業界出身の人であっても短期間に着実に育成することができている。
同社の会員数は2,000名を超えているが、次のフェーズにおいては現在展開しているトレーニングを大きく広げていくことを考えている。来年からは、地方にも拠点を設け2023年には全国100拠点を目指す。その後は日本でのサービスモデルをグローバル展開していくことも視野にいれているという。
一人ひとりがファイナンシャルリテラシーを当たり前に身に着け、それに基づいた行動ができる世界を実現していくことで、経済が活力を得て、日本の更なる成長につながっていくだろう、とプレゼンを締めくくった。
bookee:https://www.bookee.co.jp/
続いては、Sasuke Financial Lab株式会社の代表取締役である松井清隆氏による講演の様子をお伝えする。
「ニード喚起」のできる保険業界向けシステム
Sasuke Financial Lab㈱は2016年創業以降、B2Bでは「保険業界向けのシステム提供」、B2Cでは「デジタル技術を活用した保険代理店事業(サービス名:DONUTS)」を展開してきたInsureTech企業である。
冒頭松井氏からは、同社のB2Bの事業例として、世間でもよく知られた2つの企業に同社が開発・提供しているシステムについてお話を伺うことができた。
一つは、ほけんの窓口が提供する「ほけん1分診断」サービスだ。
こちらはインターネット上で簡単な7つの質問に答えるだけで、自分に必要な保障を簡単に見える化してくれるサービスであり、同社が伊藤忠商事とほけんの窓口と3社で共同開発したものだという。保障が見える化された最後の画面から、店舗の予約を簡単に行うことができるようになっており、「対面相談のニード喚起に特化したサービス」だと語る。読者の皆様もリンク先(Link)から、簡単・スピーディーな優れたUXを是非お試ししていただきたい。
もう一つは、クレディセゾンがカード会員向けに提供している付帯保険の販売システムである。
クレディセゾンがもつ顧客とのあらゆるタッチポイント(アプリ、DM、メルマガ等)を活用し、オンラインで販売するシステムを開発、提供している。こちらは今月ローンチとなる非常にホットなサービスである。
保険業界の4つのトレンドとは?
続いて、同社のB2C事業(デジタル技術を活用した保険代理店事業)に関連し、保険業界において生じている4つの変化についてのお話があった。以下それぞれの変化をご紹介していく。
変化①顧客接点の変化
損保業界では顧客接点においてインターネットの占める割合が年々高まっている。アジアでも特に日本は顕著であり、損害保険の購入においてデジタルチャネルを活用した割合が50%を占めているという。ネットで情報を収集し、対面もしくはオンラインで購入するという購買行動がトレンドとなっているのである。生保業界においてもこのトレンドは同様であり、25%~30%はデジタルチャネルを活用しているのではないか、というのが松井氏の見立てだ。
変化②家計も保険に”更に”シフト
保険の市場が巨大であることは言わずもがなだが、家計がさらに保険にシフトしているのではないか、松井氏はいう。日本銀行「資金循環表」において、有価証券と保険・年金の直近5年間(2014年3月末~2019年3月末)の増加額を比較したのが下記である。
有価証券:255兆円→278兆円(約9%増)
保険・年金:442兆円→525兆円(約19%増)
当該期間で日経平均株価が約40%上昇している事実と合わせれば、外国株式が有価証券の一定割合を占めることを差し引いても、有価証券は実質ほぼ増えていない、もしくは減っているのではないかというのが松井氏の見立てである。一方この間、上記の通り保険・年金資産は約19%の伸びを見せている。日本人の資産形成が貯蓄から投資へシフトしていると言われることが多いが、実際には「保険・年金へシフト」しているのである。
変化③需給の変化
トレンドとして、供給が減少し、需要が増加していると松井氏は語る。
供給の減少、つまり競合の減少のきっかけは2016年の保険業法の改正だという。見込み客を代理店に送客して手数料で収益をあげるいわゆるリーズ会社が、この改正により新たに保険業法の規制・監督下に置かれることとなった。ノベルティや説明義務の規制強化によりマーケティングが制限されたことを受け、多くのプレイヤーがマーケットから撤退した。
供給(競合)減少の一方、需要は確実に増加しているという。生命保険、医療保険、がん保険、いずれも2016年上期から2019年上期にかけてGoogleの検索数が有意に増加しており、オンラインを起点とした保険ニーズは確かな増加を見せている。業法改正による規制強化に耐えうるプレイヤーにとっては、商機があるマーケットということになる。
変化④循環型ニーズ
結婚、出産等のライフイベントに併せて毎年3割が生命保険への加入意向を示すという。
松井氏の言葉で印象的だったのは、「今保険のニーズがない人へのニード喚起はほぼ不可能であり、当社のフォーカスは加入に興味をもつ3割」というコメントだった。
DONUTSのコンセプトは『保険をやさしく、わかりやすく』。
続いて、同社のB2CサービスであるDONUTSについて紹介をいただいた。
松井氏が考える保険業界におけるユーザーの最大のペインは「保険はわからない」ということである。自分のライフプランにとってベストな保障もわからなければ、そもそも既にどんな保障に加入しえているのかわからないユーザーも多いのではないだろうか。松井氏はこのペインのソリューションとしてDONUTSを開発・提供している。
同サービスはDONUTSアンサー(ロボアド)、DONUTSモール(比較・見積り)、DONUTSマガジン(メディア)、DONUTSコンサルティング(FPマッチング)という相互に連携した4つの機能・コンテンツで構成される。
DONUTSの最大の特徴はユーザーIDに紐づいたデータに基づくOMOである。アンケートの回答データを始めとして、ユーザーに提示した商品提案内容、ユーザーが興味を持ったコンテンツ等、あらゆるタッチポイントで入手した情報・データをユーザーIDに紐づけることで、効率的な面談や資料請求に結びつけることができるという。
DONUTSは、サービス開始1年半にも関わらず複数社のオンライン契約で業界3位のポジションにつけており、とてつもない速度でユーザーの支持を集めていることがわかる。同社のサービスは単なる商品比較にとどまらず、レコメンドや対面予約への導線を組み合わせており、競合他社と比べてもCVRを高く保てているということだった。
松井氏曰く、「目標は、日本最大の販売チャネルになること」。ユーザーの満足度向上や課題解決の先に、ユーザーの最も選ばれるサービスとなっていたい、そんな熱い想いをお伺いすることができた。
海外におけるデジタルブローカーの動向
最後に、海外マーケットにおけるデジタルブローカーの動向についてお話を伺うことができた。松井氏曰く、デジタルブローカーのプレイヤーはここ5年で海外マーケットでも急増しているとのことで、具体例として米国のPolicygenius社やASSURANCE社、インドのpolicy bazaar社、シンガポールのgobear社等が紹介された。
中でも、ASSURANCE社は2019年9月に米系生保大手のPrudential社が買収をしたことでも知られているInsureTech企業である。Prudential社は得意領域の対面販売チャネルだけではなく、デジタルチャネルの自社開発を従来より試行していたが、先行して顧客接点を築いた会社の優位性を評価し、この度のM&Aにつながったといわれている。これにより、同社は「対面チャネル」と 「D2Cチャネル」の両輪を活用し、顧客の「時や場所を選ばず、自分の好きな条件で、 商品を検討したい」という想いに応えることができるのである。松井氏が紹介するこうした具体例からも、デジタルとリアルの融合、つまりOMOの世界的なトレンドを垣間見ることができた。
Sasuke Financial Lab株式会社:https://sasukefinlab.com/company
DONUTS:https://i-donuts.com/
第三部では南氏をモデレーターに迎え、児玉氏と松井氏の3名でのパネルディスカッションが行われた。最後にその様子をご紹介する(敬称略)。
南:一部プレゼンの中にもお話が一部ありましたが、起業のきっかけや、この事業はイケる!と思った理由はなんだったのでしょうか?
児玉:前職サイバーエージェントの藤田晋さんの「渋谷ではたらく社長の告白」という本があるのですが、その本を読み、こんなにかっこいい人がいるのか!と感動しました。以来、この人みたいに人々に元気を与えられるような経営者になりたいと思っていましたが、自分が非常に怖がりなこともあり、11年間企業には踏み出せずにいました。
一方で、両親ともに警察官であり、幼い時から「社会のために自分の人生を使いなさい」と言われながら育ってきました。それがなんなのかをわからずに過ごしてのですが、たまたま、自分自身が保険や金融商品をまったく判断できないという壁に当たり、「金融教育を義務教育に」と思い立ったのが去年の11月です。
松井:家計管理には3段階あると思っています。第一にデイリーのお金を管理すること。これは既にマネーフォワードさん等が力をいれて実施をしていました、その次に将来のリスクをヘッジするための保険。そして、最後に余ったお金での投資です。投資もいくつかのサービスがでてきており、この中で二番目の“保険”があまり手付かずだったというのが、DONUTSを開始した理由の一つです。
また、保険の課題は“解決できる”と思ったことも大きな理由です。投資の元本割れリスクを日本人が受け入れるのはなかなか難しいですが、保険最大のペインである“わからない”ことは解決ができる課題だと考えていました。
南: 実際に起業をされて、保険のニーズ喚起とデジタルとの相性はどのようにお考えでしょうか?
児玉:相性はいいと思います。保険商品は難しいですが、インターネットを使えば簡単に情報収集ができ、多様な商品との比較ができます。また、NISA等の異なる金融商品を入口・きっかけとして、保険に興味を持つようなことも考えられます。弊社のお客様も金融全般に興味を持っている、という方は意外と少なく、iDeCoや住宅ローンといった特定の金融商品をきっかけに興味を持ってくださる方が多いです。なかなか保険に加入するタッチポイントをつくることは難しいですが、デジタルを用いることで、他の商品から喚起をすることが可能になるのではないかと思っています。
松井:現在、生命保険のオンライン加入率は1%ほどですが、10年後には10%ほどになってくると考えられています。オンラインで調べて、対面で契約するという加入経路は今後主流になるのではないかと思っており、このようにコンタクトポイントが変化しているトレンドを踏まえると、相性はいいといえるのかもしれません。
南: 保険業界のデジタル化はあまり進んでいませんが、今後のデジタル化に対する関する期待があれば教えていただきたいです。
児玉:金融業界出身ではないので、皆様を前に答えに窮しますが(笑)。
インターネットはお客様とダイレクトに繋がれるチャネルです。前職で立ち上げに携わったアメーバブログもいまや毎日2千万人以上がみるコンテンツになっています。場所が離れていても、インターネットを経由して人同士を繋ぎ、リアルの人の行動を変えることができるため、大きな可能性を秘めていると思っています。
松井: お客様に保険を販売している立場としては、保険会社はインターネットで販売できるより良いプロダクトを作って欲しいというのが希望です(特に生命保険はインターネットで購入・契約できる商品がまだ少ない現状がある)。そうなれば他業界と同様にインターネットで様々な商品を比較・購入できる前提条件がそろうのではないかと思います。
南: 最後にお二人が目指す世界観を教えてください。
児玉: インベスターZという漫画をご存じでしょうか?中学生が投資を始めて学校の運営資金を稼いでいく漫画で、中高生の間でも流行っています。その影響もあり、今中学生からの株式投資が話題にもなっています。それは一例ではありますが、ゆくゆくは国語、算数、理科、と金融が並ぶような小学校や中学校の教科の一つになるような世界を作りたい。そして誰もが不自由なく金融商品を選べるような金融リテラシーを身につけた世界にしていきたいです。
松井: 児玉さんと同じです。結婚して、子供ができて、仮に自分が死んだら、いくら足りないのかが自分自身で計算できる。そのときにどのような保険にどれくらいはいっておかなきゃいけないのかを一人ひとりがスっと理解していただけるような世界を目指したいです。
南: ありがとうございました。
最後に
保険商品は「難しい」。
筆者のように保険会社の商品部に属する人間がいうのは無責任な話かもしれないが、それでも難しいと感じる場面は多々ある。今回ご登壇をいただいた2名は、まさにこの「難しい」保険や金融商品を人々のリテラシー向上や、テクノロジーを駆使することで「わかる」ものに変えていく。そんな事業を展開されており、筆者自身非常に勉強になる部分が多かった。
また、決してテクノロジードリブンではないのも印象的だった。多くの人にとって必要不可欠な保険や金融商品を各人がどのように選択し、適切なものを購入していくべきなのか、その課題・障壁となっているものはなんなのかをお客様により添い突き詰めて考えた結果としてのサービスなのである。
あくまで中心にいるのは“人”であり、そこに目を凝らしたからこそ、お客様に選ばれるサービスになっているのである。
登壇の後には懇親会もあり、多くの参加者が交流を深めた。
東京海上グループ有志団体”Tib”の「東京海上のイケてる感を社内外に伝えるチーム」(通称:イケチー)。
本日のライターはまっちゃん、あつこ
普段から東京海上や保険の面白さ、ワクワク感を伝えるための広報活動を研究しおり、現在はSNSによる記事の発信に加え、インフォグラフィック(「Tibのこれまで歩み」公開中)・動画コミュニケーションなど様々な領域に挑戦中。
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